札幌市教育委員会は11日、複数の児童へ不適切な指導や、同僚の教諭にパワーハラスメント行為をしたとして、市内の小学校に勤める40代の男性教諭を停職6カ月の懲戒処分にしたと発表した。教諭は同日付で依願退職した。
市教委によると、男性教諭は2016年度から23年度にかけて、勤務した市内の二つの小学校で特別支援学級の児童に対し、▽児童の額を指ではじく▽パジャマ姿の児童の手首を引っ張って家から連れ出すといった体罰2件のほか、▽児童へ大声で暴言▽児童の椅子や机を蹴る▽児童の作品を「やり直し」と述べて破り捨てる▽過度な負担となる宿題を出す▽「幼稚園に返っていい」と発言する――などの不適切な指導を12件行った。
被害を受けた児童は少なくとも3人で、指導が原因で不登校になった可能性がある児童も複数いるという。事実認定は、市教委が依頼した弁護士2人が行った。
また、18年度に、この男性教諭は同僚の女性教諭に対し、子どもがいる教室で「逃げんなや」などと大声をあげるなどのパワハラ行為も2件、認定された。女性教諭は休職し、その後、一時は教育現場に復職したものの、23年に自死した。
市教委は、弁護士2人による調査の結果「パワハラと自死との間の因果関係を認めることは困難であると判断された」としている。
20年4月以降、こうした不適切な事案について、保護者から少なくとも複数回、市教委に相談が寄せられていた。だが、市教委は対応を学校現場に任せ、本格的な実態調査を始めたのは、一部メディアが報道した後の23年10月だった。被害者側の代理人弁護士によると、亡くなった女性教諭も19年3月に市教委に男性教諭の不適切指導を相談していたという。
市教委は一連の対応について「結果的に不十分だった」などと謝罪した。
「時間は戻ってこない」
男性教諭の懲戒処分を受けて、保護者や遺族が代理人弁護士を通じてコメントを寄せた。詳細は次の通り(一部を編集しています)。
【2019~23年度に体罰・不適切指導があった小学校の保護者一同のコメント】
まずは、私たちが訴えた内容が認められたことについて安堵(あんど)しております。この度の調査で、慎重に事実関係を調査してくださった調査委員の皆様、調査に協力してくださった皆様には、心より感謝申し上げます。
男性教諭が、前任校でも同様の問題を起こしていたこと、女性教諭へパワハラを行っていたこと、当該女性教諭が亡くなっていたことを知ったときには大変驚き、怒りを覚えました。もし私たちが声をあげなければ、誰かの命が失われなければ、市教委は動くこともなく、男性教諭はなんのお咎(とが)めもなく教壇に立ち続けていたのかと思うと、あまりにも遅すぎる対応であったと言わざるを得ません。
我が子が苦しみ、親として葛藤を繰り返してきた時間は戻ってきませんし、子どもが受けた心の傷も簡単に癒えるものではありません。市教委、学校関係者の皆様には、二度と同じ思いをする児童生徒、教職員が出ないように、本件を真摯(しんし)に受け止めていただきたいと思います。
最後に、前任校の女性教諭が、自らパワハラ被害を受けながらも、子どもたちのために声を上げてくれていたことについて。私たちは皆、先生の勇気ある行動に感謝の思いでいっぱいです。そして、先生のことを心から誇りに思っております。この場をお借りして、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
【女性教諭の遺族のコメント】
6カ月の停職処分とのことですが、娘の受けた被害や、お子さん方が受けた精神的・肉体的苦痛を考えると、あまりにも軽すぎる処分と言わざるを得ません。
娘は、赴任して間もなく、当該教諭の児童への言動を目の当たりにしました。同じ特別支援学級の教諭として、大きな衝撃を受けたことと思います。ただ、同校では当該男性教諭の教育方針がまかり通っていて、逆に娘が目を付けられ、パワハラ被害を受ける結果となりました。また、管理職や市教委へ言っても全く聞いてもらえないことにも絶望していました。今回の調査で、同校での体罰・不適切指導が認定されたとのことですが、氷山の一角に過ぎないと思います。当時速やかに男性教諭の言動を調査していれば、多くの児童が被害を受けることは防止できたと思います。また、娘が命を落とすこともなく、大好きな教員という仕事を続けられたのではないかと思うと、本当に無念でなりません。
なぜもっと早く調査してくれなかったのか、その思いは一生拭えることはありません。