「バズる政治系動画を作ろう」。SNSを使った選挙運動に関心が高まる中、千葉県立小金高校(松戸市)の生徒らが授業でこんな課題に取り組んだ。架空の政党に所属する国会議員になったという設定で実際に作ってみると……。
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記やロシアのプーチン大統領の顔のアップが数カット続いた後、「日本滅亡」という大きな文字が映し出され、自衛隊の行進風景に切り替わる。
6月下旬、同高3年C組であった選択科目の政治・経済研究の一コマ。画面に流れていたのは、このクラスで「平和安全党」の担当になった生徒たちによる動画だ。
「平和安全」のほか、「福祉充実」「経済活性」「環境未来」「AI改革」の計5党が、それぞれの主張を2分以内の動画にまとめて発表した。
地球温暖化に注目し、電気自動車の導入を訴える党、事前にあった各党党首による演説会の模様を紹介する党など、内容は様々。手法も、動画のほか、静止画を多用したもの、字幕中心のものなどバラエティーに富んでいた。
各党の動画が終わるごとに、生徒は次の4項目について、「高い」から「低い」までの5段階評価をし、所定の用紙に書き込んだ。
項目は、注目度 面白さ・演出などは視聴者を引きつける内容だったか▽倫理性 誹謗(ひぼう)中傷への配慮があったか、伝えている事実は正確だったか▽政策理解度 政党の政策や主張が理解できたか▽共感度 納得・共感できる内容だったか、だ。
集計の結果、「注目度」の1位は環境未来党、2位には平和安全党が続いた。
担当した大塚功祐教諭(43)によると、国会や内閣といった政治制度を教えることにとどまらず、同時にSNSとの向き合い方について考えてもらおうと実施したという。2、3年生の計6クラスが対象で、生徒らはランダムに5党に振り分けられたうえ、約2週間かけて動画を作成した。
大塚教諭が3年C組の生徒に、動画を作り、視聴した感想を尋ねると、「他党に批判される内容でも、取り上げられたら注目される」「動画の最初が長かった。内容を早く知りたいかな」。「音がうるさい」という意見も出た。
今回の目的は、再生回数が多くなりそうな動画を作ること。一方で、再生回数が多ければそれでいいのか、という点に思いを巡らせることだ。大塚教諭は「動画には誘導や誇張もある。冷静な目で判断して欲しい」と呼びかけた。
「平和安全党」の動画制作に携わった妻井悠真さん(17)は、「作る側からすれば再生回数を稼ぐのが正義」。首脳などの画像をネットで拾い、大きな字幕を用いて「バズる」のを狙ったという。
そのうえでこう続けた。「正しい情報だけでは再生数は伸びなくて、再生数を伸ばすために過激なことを入れた結果、情報として間違うことが多くなると思う。選挙に投票する時は、文字やテレビのニュースから情報を得て、候補者の街頭演説も聞いて判断したい」