
この社説のポイント
●簗農水相が就任1カ月もたたずに辞任した。高市首相の起用自体に疑問符がつく
●首相は行政の公正性に疑念を招いた「予算カット」発言の重大性を見誤った
●辞任で終わりではなく、事実関係の究明や政治と行政の関係の透明化が必要だ
「働いて仕事で返せ」という続投指示から一転、高市早苗首相が簗(やな)和生農林水産相の事実上の更迭を決めた。
与党過半数割れの参院で、野党が簗氏の問責決議案提出の構えを見せ、今国会の最重要法案である消費減税法案の審議入りに影響が及ぶ事態に追い込まれての判断である。
自身を選挙で支持しなかった首長がいる自治体の予算を大幅にカットしたという簗氏の発言は、行政の公正性に深刻な疑念を抱かせた。辞任すれば済む問題ではない。国民の信頼を取り戻すため、首相は事実関係の究明や、政治と行政の関係の透明化などに取り組まねばならない。

首相は簗氏の辞表を受け取った後、記者団に対し「国会審議はもとより、農林水産行政に集中できない状況は看過できない」と述べた。予算カット発言や新たに浮上した公職選挙法違反疑惑を重く受け止めての判断とは言えない。
責任回避のための理屈付け
衆院予算委員会の審議では、簗氏陣営が支持者らをシャトルバスで無料送迎したことが、公選法の禁じる利益供与に当たるとの指摘を重く見て、「違法性のあるようなことがあればちゅうちょはしない」と述べていた。法令違反の疑いは看過できないが、予算カット発言の重大性を見誤り、いわば不問にした自身の責任回避のための理屈付けにしか見えなかった。
簗氏は選挙での自身への支持と公共事業を結びつける言動を繰り返していた。応援演説で「私の知恵袋」とまで持ち上げた首相は、そのことに全く気づかなかったのだろうか。簗氏は就任から1カ月もたたずに辞任した。そもそもの起用の判断に疑問符をつけざるをえない。
簗氏は2市町の道路予算を国土交通省に問い合わせたが、減額を求めた事実はないという。だが、現実に2市町の予算は大幅に減らされている。なぜそうなったのか。本当に記録はないのか。このままでは納得できない。
この機会に、政府全体として、政治家と行政との接触のあり方や、事後に検証可能な記録の残し方について、ルールを整えてはどうか。予算や事業採択をめぐる要請、照会について、透明性を確保することが、行政への信頼につながるはずだ。
予算カット発言が報じられてから10日余り。首相の対応は後手に回った。自民党内に簗氏を批判する声はあったが、執行部が首相に早期対応を促したようには見えない。国民の信を失った裏金問題が記憶に新しいというのに、自浄作用を発揮できなければ、責任政党とは言えまい。
- 簗農水相が辞表提出「これ以上迷惑かけるわけには」 質疑2分だけ
「社説digital」は、朝日新聞朝刊に掲載する社説をいち早くお届けします。












