高校生が考え出したアイデアを超小型人工衛星に載せ、宇宙から届いたデータを映像や音で表現する――。佐賀県と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が始めた4年にわたるプロジェクトが2月、幕を閉じた。残念ながら衛星からの通信は届かなかったが、模擬データを使った分析結果を報告。生徒たちは「良い体験ができた」と充実感を語った。
プロジェクトは2021年度、宇宙教育を通じた次世代の育成を目指す「JAXAGA(ジャクサガ)スクール」の一つとして始まった。衛星活用のアイデア公募で、地球を撮影し720度の映像にする、赤外線で気候を調査する、宇宙空間のガンマ線を測定しデータを音に変換する、の三つが選ばれ、県内5高校のチームが後輩へと受け継いできた。
九州工業大(北九州市)の協力で完成した手のひらサイズの超小型人工衛星(キューブサット)「SaganSat(サガンサット)0号機」は昨年8月、ロケットで打ち上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)から宇宙空間に放出された。
だが、放出から1カ月たっても、サガンサットからのデータが県立宇宙科学館(武雄市)に設置された無線局に届くことはなかった。和歌山大の大型パラボラを使ってもダメだった。北村健太郎・九工大教授は、アンテナが展開しなかったか、起動スイッチの不具合か、いずれかの可能性が高いと結論づけた。サガンサットは想定より早く高度が落ち、12月に大気圏に再突入して燃え尽きたという。
衛星データの解析は断念。生徒たちは、宇宙に関する一般の公開データなどを、サガンサットからのデータと仮定して作業に取りかかった。
今月2日、その成果報告会が同科学館で開かれた。北陵高のチームは、動画生成AIや3DCGソフトで、サガンサットから地球や宇宙を撮影したかのような映像を作成。完成映像を披露し、「宇宙に対する興味関心が更に増し、良い経験になった」と発表した。
ほかに、米国の地球観測衛星の画像をコンピューターに機械学習させて降水確率を出したり、論文から引用したガンマ線のグラフを、画像を音声に変換するソフトで音にしたりと、各チームが専門家のアドバイスを受けながら工夫を凝らした成果を報告した。
修了式では、ジャクサガスクール名誉校長で宇宙飛行士の大西卓哉さんがメッセージを寄せた。自身も高校時代に人力飛行機をつくるサークル活動に没頭し、その体験が宇宙飛行士の素地になったといい、「夢中になり打ち込んだ経験は何物にも代えがたい財産になる。皆さんも今回の経験が将来の可能性を広げるきっかけになることを願っている」と激励した。
720度映像の作成に携わった唐津東高2年の緒方舞人さんは「AIの活用を体験できた。将来は何かものづくりができる仕事をしたい」と話していた。
県によると、人工衛星開発プロジェクトは今年度で終了し、新年度以降は高校生が広く参加できるセミナーなど別の形で継続する予定という。