
この社説のポイント
●米中間選挙で民主党が上下両院を奪還。共和党による政権と議会の独占が崩れた
●暮らしへの不満に加え、強権政治と民主主義の危機に有権者が「ノー」を示した
●日本はトランプ政権の暴走を警戒し、外交の多角化を図れ
トランプ大統領の強権政治に米国の有権者が明確な「ノー」を突きつけ、与党・共和党が大敗した。中間選挙で野党・民主党が上下両院の多数派を奪還した。大統領と上下両院を共和党が握る「トリプルレッド」の構図が崩れ、米国の政治は新たな局面を迎えることになる。
中間選挙は大統領任期4年の折り返し点で行われる。政権発足当初の期待が薄れ、大統領の所属政党が議席を減らすのは通例だ。とはいえ今回は、共和党が牙城(がじょう)としてきた州で次々と敗れた。歴史的な敗北といえる。
広がる公約との乖離(かいり)
トランプ氏は「選挙結果を受け入れる」と語った。2020年の大統領選では敗北を認めず、連邦議会への襲撃につながった。民主主義の根幹を揺るがす愚行を繰り返してはならない。
共和党が大敗を喫した背景には、米国を再建し、暮らしを改善するという公約への失望がある。トランプ氏は「米国第一」を掲げ、忘れられた人々の生活を立て直すと訴えて政権に復帰した。
ところが、食品や燃料に加え、住宅、医療、教育、保育などの費用が家計を圧迫。暮らしを維持することが難しいという切実な不満が、「アフォーダビリティー(無理なく負担できるかどうか)」という言葉とともに、中間選挙の争点となった。
関税を他国との交渉の武器として振り回し、足元の消費者や企業への負担には十分に目を向けてこなかった。輸入品の値上がりだけでなく、報復関税は農家や輸出企業にも打撃を与えた。
戦争に米国を巻き込まないとしながら、イランを攻撃。燃料価格の上昇は米国民の暮らしに跳ね返った。
犯罪者の追放を掲げた移民政策でも、地域に根を下ろした移民まで摘発の対象となった。行き過ぎた取り締まりは人権を脅かし、多様な人々を受け入れてきた米国社会の価値観に背いた。

巨大企業への優遇も人々の不信を招いた。人工知能(AI)向けデータセンターの建設が相次ぎ、電力需要の急増が地域の電気料金を押し上げることが懸念されている。
民主主義も標的に
問題は政策の失敗にとどまらない。議会の十分な関与や同意を経ない武力行使、関税政策、政権と巨大企業の接近に加え、大統領や一族をめぐる利益相反の疑念もくすぶる。公権力の私物化は断じて許されない。
より深刻なのは、民主主義を支える制度そのものが揺さぶられてきたことだ。メディアへの圧力、司法の独立を脅かす言動、投票手続きへの制約。共和党に有利な選挙区割りの変更も進められた。こうした権力の暴走を止める転機にしなければならない。
民主党も、トランプ政権を批判するだけでは持続的な支持基盤を築けない。今回の結果を直ちに民主党への支持の波とみなすのは早計だ。民主主義を守ると訴えるだけでなく、国民の暮らしをどう改善するのか、説得力のある答えを示す必要がある。
党内には中道・穏健派と民主社会主義を掲げる左派の路線対立がある。左派の台頭を単純に急進化ととらえるべきではない。負担に苦しむ人々に寄り添い、格差を是正することはまっとうな政治だ。2年後の大統領選も見据え、党内をまとめ、「反トランプ」にとどまらない将来像を示せるかが試される。
日本外交の多角化を
下院は、政権幹部の証言や文書の提出を求め、予算審議を通じて政策を監視できる。上院は、政権人事の承認にあたる。トランプ氏が「ミスター拒否権」を自称しても、議会の調査や監視まで封じることはできない。
共和党議員も大統領への忠誠より有権者への責任を優先できるかが問われる。
上下両院で主導権を失ったトランプ氏が、大統領権限などで議会を迂回(うかい)し、身勝手に振る舞う恐れがあるのが外交・安全保障分野だ。これまで以上に国際法や同盟国の利益を軽視するのではないかと強い懸念を抱く。
中国やロシアを利する大国間の取引、北朝鮮との関係改善など、負の遺産となる「手柄づくり」に邁進(まいしん)しかねない。ウクライナの主権や台湾海峡の平和、同盟国に安全保障上の犠牲を強いることは許されない。
日本は対米関係にのみ腐心していては、外交の展望を描けない。日米同盟は安全保障の重要な基軸だが、同盟を重視することと、トランプ政権に追従することは違う。
韓国やカナダ、欧州など価値観を共にする国々との協調と連携を深める。米国離れが進む東南アジア諸国連合をはじめ、グローバルサウスとの対話も広げたい。
米国の理不尽な要求には異議を唱え、国際法に反する行動には明確に反対する。その一方で、米国との協力の土台を保ちつつ、外交の選択肢を広げていく。そうした主体的で多角的な外交こそが、日本の利益と国際的な信頼を守ることにつながる。
- 民主党、上下両院「歴史的な勝利」 トランプ氏は結果「受け入れる」
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