
連載コラム「政海コンパス」 編集委員・松田京平
このコラムは…
日本政治のこれからを展望します。過去に学び、永田町はもちろん地方や海外にも視野を広げ、未来を見据える。先行きが読めない時代に、政治という大海原を見渡すための羅針盤となるようなコラムをめざしています。
降りしきる秋の長雨の中をJR山陰線の特急が進む。日本海に近い山あいの街並みはやや暗く、車窓から川の水かさが増しているのが見えた。野生のコウノトリが生息していることで有名な人口約7万人の兵庫県豊岡市。かつてこの地で大水害を経験し、全国の首長に心構えを説いた人がいると知り、中貝宗治元市長(71)を訪ねた。
2004年10月20日夕。台風23号による大雨が降り続く中、市内を流れる円山川が急激に増水した。市長として陣頭指揮を執る中貝氏は午後7時すぎ、避難指示を出す。その直後、職員が顔中に脂汗を浮かべて「市長、排水機を止めてもいいでしょうか」と判断を求めてきた。
排水機とはポンプのことで、支流の水をくみ上げて、円山川の本流に流していた。稼働し続けると本流の堤防が決壊し、人的被害の恐れが格段に増す。一方、ポンプを止めれば、支流があふれて市街地に大量の水が流れ込むのは間違いない。究極の選択だった。

ポンプを止めた。「自分の街…


