Smiley face

 40代の主婦リョウさん(架空の人物)は、今日も仕事から帰ってきた途端、ソファに沈み込んでしまいました。本当は、夕食を作って、お風呂に入って、洗濯物もたたむつもりだったのです。ところが、体が言うことを聞いてくれません。

 リョウ「今日こそちゃんとやろうと思ってたのに……もう指一本動かせない」

 結局、夕食は簡単なもので済ませ、洗濯物はソファの上に置いたままになりました。

 リョウさんは9時から17時まで、週5日のパート勤務。世間的には、ごく標準的な働き方です。それなのに、仕事が終わったあとに習い事へ行ったり、友人とご飯を食べに行ったりする同僚を見ると、こう思ってしまいます。

 リョウ「その体力、いったいどこから出てくるの……。私なんて、仕事だけでもう精いっぱいなのに」

通勤だけでぐったり、夫の一言がぐさり

 疲れるのは、仕事そのものだけではありません。通勤電車の人混みや乗り換えだけで、職場に着くころにはすでにぐったりしているのです。

 リョウ「通勤してるだけなのに、なんでこんなに疲れるんだろう」

 そして迎えた休日。リョウさんは、布団からほとんど出られません。スマートフォンでSNSを開くと、友人たちの旅行やランチ、子どもとのお出かけの写真が次々に流れてきます。

 リョウ「みんな、なんでそんなに元気なの……。どうして私だけ、こんなに疲れやすいんだろう」

 夫にそうこぼすと、こんな言葉が返ってきました。

 夫「そんなに疲れてるように見えないけど。気合が足りないんじゃない?」

 その一言に、リョウさんはさらに落ち込んでしまいました。けれど、リョウさんは怠けているわけでも、気合が足りないわけでもありません。

体力も回復にかかる時間も、人それぞれ

 そもそも、体力や必要な休息量は、人によって大きく違います。

 どのくらい眠れば十分な回復感が得られるかには、もともと個人差があります。食事についても同じで、体質や持病、活動量、生活環境などによって、その人に合った内容は変わってきます。

 これは、大人になって急に始まったことではないはずです。

 保育園や幼稚園のころを思い出してみてください。お昼寝をほとんどしなくても元気いっぱいの子もいれば、たっぷり眠らないと機嫌が悪くなる子もいましたよね。

 中高生時代にも、部活で毎日汗を流し、勉強もして、さらに友達とも遊ぶ「体力お化け」のような同級生がいた一方、部活をしていなくても学校生活だけで十分に疲れてしまう人もいたはずです。

 「そうか、そもそも同じじゃなかったんだ」。そう思えると、少し肩の力が抜けるのではないでしょうか。

 とはいえ、「自分にはどのくらいの体力があるのか」を、感覚だけで把握するのは意外と難しいものです。

リアルな自分を知る「活動ログ」

 そこでおすすめしたいのが、活動のログを取ることです。難しい記録をつける必要はありません。スケジュール帳やスマートフォンのカレンダーに、その日やったことを書き残しておくだけで十分です。しばらく続けて振り返ってみると、

 「夜の外出が週3回になると、翌週かなり疲れている」

 「あの取引先へ行った日は、いつもぐったりしている」

 「実家に帰った翌日は、なぜか体調を崩しやすい」

 といった、自分でも気づいていなかったパターンが見えてくることがあります。

写真・図版
スケジュール帳を活用して、自分の「リアル体力」を把握する=イラスト・中島美鈴

 リョウ「へえ……月曜と火曜に予定を詰め込むと、水曜に必ず何もできなくなってる。これ、自分では全然気づいてなかった」

 「自分には体力がない」と漠然と考えるのではなく、「自分にはどのくらいの活動量がちょうどいいのか」「何をすると特に疲れるのか」「どんな予定の組み合わせに弱いのか」を、具体的に知っていくことが大切です。

「何にエネルギーを消耗しているか」も知る

 もう一つ大切な視点があります。もともとの体力の量だけでなく、「必要以上に体力を使ってしまっているところはないか」を確認することです。

 たとえば、必要以上に高い完成度を目指して仕事で消耗していないか。人に気を使いすぎていないか。断れずに予定を詰め込みすぎていないか。そして、自分の特性と、今の仕事のやり方や環境が合っていないということはないでしょうか。

 特に、自分の特性と環境のミスマッチは、見落とされがちです。

 たとえば、一つの作業にじっくり集中して取り組むと高いパフォーマンスを発揮できる人がいるとします。この人が、電話が頻繁に鳴り、あちこちから話しかけられ、複数の仕事を同時進行しなければならない職場に置かれていたら、仕事の能力とは別のところで、大量のエネルギーを消耗してしまうことになります。

 一つのことに没頭すれば力を発揮できる人が、絶えず注意を切り替えなければならない環境にいるとしたら、それはとてももったいないことです。

 単純に「私は体力がない」と結論づける前に、「自分は何にエネルギーを奪われているのか?」を探してみることをおすすめします。

「やりたいこと」は、優先順位をつけて

 自分の体力の限界もわかってきた。無駄に消耗していることもわかった。それでも、私たちには「これだけはちゃんとやりたい」ということが、たくさんあるものです。

 そんな時は、あれもこれもと欲張らず、やりたいものに優先順位をつける。そんな視点が必要になってきます。1位から10位まで、あえて本気でランキングをつくってみることをおすすめします。

 少し極端な問いを自分に投げかけてみましょう。

 「今日はもうヘトヘトで、家事を一つしかできないとしたら、何をする?」「二つできるなら?」と考えてみます。仕事であれば、「今日、絶対に終わらせるものを一つだけ選ぶなら?」と自分に問いかけてみましょう。

 「全部やるか、全部やらないか」ではなく、限られた体力を何に配分するかを考える習慣が、少しずつ生活を楽にしてくれます。

「みんなと同じ」を目指さなくていい

 「みんなと同じだけ動けるようになること」を目標にする必要はありません。SNSを見ながら落ち込むより、「私の体力なら、今日はここまで」と、自分の「リアル体力」に合わせて生活を設計していくほうが、ずっと現実的です。

 リョウさんも、活動のログをつけ始めてから少しずつ、自分に必要な休息のリズムがわかるようになってきました。

 リョウ「疲れやすい自分がダメなんじゃなくて、私に合った動き方がわかっていなかっただけなのかもね」

 ぜひ、あなたも自分の「リアル体力」を、少しずつ知ることから始めてみてください。

    ◇

 このコラムでご紹介したリアル体力を知る方法についてもっと知りたい方は「会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動」(中島美鈴著、日経BP社、2025年)もどうぞ。

<臨床心理士・中島美鈴>

 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。

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