職場や近所づきあいで何げない雑談を交わすことは、誰しも経験があるのではないでしょうか。
今回は、「ちょっとした会話が続かない」という悩みをテーマに考えたいと思います。
- 連載「上手に悩むとラクになる」
20代の会社員マナミさん(架空の人物)は、会話が続かないことに悩んでいます。取引先や異業種交流会での雑談、職場の昼休みや外勤の移動中など、ちょっとした会話に困るそうです。
マナミ「私は独身で、子どもの話をされてもわからない。仕事の愚痴はだいたい社内の誰かの悪口が出てくるから、うっかりうなずくのは危険。海外の知らない『推し』や見たこともない映画の話など興味のない話題をされても、反応に困るんですよね」
たしかに、それは困りますね。でも、普通は「会話が続かない」とそこまで悩む人は少ないと思うのです。マナミさんに何が起きているのでしょうか。
反対に、会議の進行や仕事上の質問、報告には支障がないそうです。どうやら会話全般が苦手というわけでもなく、「目的のない会話」に不慣れな様子でした。
一生懸命働いていますが、時々「私って、なんでこんなに会話が続かないんだろう。だから親友がいないんだろうか」と孤独を感じているようです。
悩みの神髄は「人と親しくなれない」
みなさんはこのお悩み、共感できますか? 実際には、けっこう多いご相談です。こうした悩みをカムフラージュし、うまく乗り切るためのノウハウは、世の中に多く出回っています。天気やニュース、人気のランチスポット、プロスポーツの話題、株価などの経済情報、共通の知人のうわさ話などがよく取り上げられるようです。
ただ、この手のご相談をされる方はすでに、こうしたノウハウを実行済みのことが多いのが現状です。
彼女の悩みの神髄は、表面上の会話の継続もさることながら、「会話をしながら人と親しくなれない」ことなのでしょう。

実際にどんな会話が交わされているのか、具体例を聞いてみました。
職場の昼休み、同僚との会話です。
(従来のパターン)
同僚「ね、今度ドームに◯◯がツアーでくるんだけど、チケットとれたんよ!」
マナミ「そうなんだ。〇〇ってよく知らないなあ……」
同僚「今、大人気だよ! ダンスもうまいし歌もすごい」
マナミ「コンサートあると、あの辺混むからほんと大変なんだよね」
同僚「そうだよね……」
マナミ「……」
さて、この悩みの背景には、次の四つの要因がありそうです。
①正確に内容をつかもうとし過ぎている
②完全に共感できない話題には、「すごい」などと反応してはいけないと思っている
③相手がどう感じているかよりも、事実かどうかにこだわり過ぎている
④自己開示をする/しないの間がない、二者択一的な白黒思考
ひとつずつ解説しましょう。
多少のリップサービスは許容範囲
①正確に内容をつかもうとし過ぎている
口頭でのコミュニケーションは案外雑で、多くの情報が省略されて、前後の文脈から読み取らなければならないニュアンスも多いです。声色や表情といった非言語的コミュニケーションに頼る部分も多いため、文字情報のみを正確につかもうとすると、かえって正しく理解できないこともあるようです。
こうした会話では、ドームにくる「○○(アイドル?)」について、よく知らなくても問題ないのです。
②完全に共感できない話題には、「すごい」などと反応してはいけないと思っている
これは少し不器用な対応で、誠実さにこだわりすぎている気もします。誰も傷つけない程度のうそならば、多少のリップサービスは社会的に許容される範囲でしょう。
誰かに100%共感できることはめったにありませんが、「ああ、なんとなくわかるなあ」と言ってもらえるだけで、私たちの心は温まるものです。同僚がチケットを取るのに苦労した様子とうれしそうな表情から、「すごい」「よかったね」と返すのがベターなのです。
客観的な事実より「心の事実」に目を向ける
③相手がどう感じているかよりも、事実かどうかにこだわり過ぎている
臨床心理学の分野では、相手の説明する状況が事実かという点もさることながら、同じぐらい「心的事実」も大切にしています。その人が、その事実をどのように体験しているかということです。ここが一番大切です。
「あんなひどい上司ったらいないと思う!」と激怒している友人に、事実を確認するように「本当にその上司がひどいのか、具体的に何をしたのか教えて」と返すより、「そうなのね。ほんとひどいのね。つらかったね」という心の事実に焦点を当てて共感するほうが、友人はうれしいものです。
そうやって感情が昇華されると、人は冷静になれて「言うほどあの上司、ひどくなかった」と思い返せたりするものです(時間はかかりますし、人によりますが)。
極端な例では、もしこちらが真摯(しんし)な態度でその人に接していても、相手から「バカにしている」と腹を立てられたとしたら、相手にとっての心的事実は「バカにされた」なのです。こちらに全くその意図がなくても、そう感じられたことは間違いなく「それは不快な思いをさせたね。悪かったね」と応じます。
ドームでのコンサートも同じで、マナミさんにとっては渋滞が心配でも、同僚からすれば「レアなチケットがとれた奇跡!」なのです。
④自己開示をする/しないの間がない、二者択一的な白黒思考
私たちは知り合ってから、どの程度の時間をかけて仲良くなるのが普通なのでしょう。個人差も文化差もありますが、目指す到達点が「仕事仲間」なのか「親友」なのかでも違いそうです。段階を経て徐々に仲を深めていくのは王道のようですが、その際に大切なのは「自己開示」、自分のことや本音をどの程度話すのかです。
対人関係における不安の強い人は、全く自分のことを話さないか、全部を理解してもらいたがって全て話すという極端な傾向にあります。不安な場合は、あらかじめ話す話題の範囲を決めておくのも安心かもしれませんね。たとえば、「仕事仲間には、主観的な感想を言うのはやめておこう」といったかんじでしょうか。
いくら真実でも「〇〇(アイドル?)のことはよく知らない」「コンサート当日は交通渋滞で迷惑だ」ということは、わざわざ伝える必要はなさそうです。
共感し合い、あたたかく 会話にゆとり
さて、以上を踏まえて、マナミさんは同僚との昼休みの会話に再チャレンジしてみました。
(改善後)
同僚「ね、今度ドームに◯◯がツアーでくるんだけど、チケットとれたんよ!」
マナミ「そうなんだ! よかったね! 大ファンだもんね」
同僚「そうそう! もう絶対無理かなって福岡以外のも全部申し込んだんだけど、福岡だけとれてさ! 奇跡!」
マナミ「ほんとよかったね! 当然グッズも買いに行くの?」
同僚「当たり前じゃん! 今から働くモチベーション上がりまくるわ。この推し活のために働いているんよね!」
マナミ「いいね!」
ずいぶん会話の流れがよくなりましたね。こうしてみると、人の会話はずいぶんいい加減であいまいな部分も多いと思いませんか?
しかしそうしたちょっとした余白に助けられて、私たちは共感し合い、あたたかくなっているのかもしれません。ゆとりを忘れずにいたいですね。
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今回のコラムでご紹介した対人関係の切り抜け方をもっとお知りになりたい方は、先月出版された「ささいなことで傷つきがちなオトナ女子の心の救急手帳」(中島美鈴著、フォレスト出版)もどうぞ。
https://www.forestpub.co.jp/author/nakashima_misuzu/book/866803586
〈臨床心理士・中島美鈴〉
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。







