記者コラム「多事奏論」 編集委員・江渕崇

道路脇に立てられた簗和生農水相(当時)のポスター=2026年10月8日、栃木県那珂川町、江渕崇撮影

 東北のわが郷里に「きゃっぽ」という方言がある。水たまりやぬかるみに足を踏み入れ、靴の中に水が入ることをいう。「やってしまった」という落胆や、ぬれた生地の不快感までニュアンスに含む絶妙な言葉である。

 実家から最寄りのバス停までは穴ぼこだらけの砂利道で、18歳で上京するまでついぞ舗装されなかった。雪解けの季節など、しばしば「きゃっぽ」してしまい、ストーブで通学靴を乾かすハメになる。

 都会では利権の象徴のように語られがちな道路だが、一本の道がどれほど農村の暮らしの質を左右するか、私は身をもって知った。

国からの道路予算が減額され、拡幅工事が中断した町道=2026年10月8日、栃木県那珂川町、江渕崇撮影

 その道路整備を巡る発言などで、簗(やな)和生氏が農林水産相を更迭された。衆院選栃木3区で自身の票が少なかった2市町の道路予算を「大幅にカットした」と、あろうことか自慢げに語ったのだ。

 簗氏は問題発覚後、2市町の予算について国土交通省に問い合わせはしたが、減額の圧力はかけていない、などと釈明した。

 その一つ、栃木県那珂川町は実際に、道路予算を前年度より54%も減らされた。前年度の予算の消化をみても、工事の進捗(しんちょく)をみても、これほどの減額の心当たりはないと益子純恵町長は言う。

 「栃木3区は6市町しかない。関心があるなら全部問い合わせればいいのに。簗さんは、なぜ二つだけ名指ししたんでしょう」

国からの道路予算が減額され、拡幅工事が中断した町道。トラックも慎重にすれ違う=2026年10月8日、栃木県那珂川町、江渕崇撮影

 那珂川町は予算が足りなくなり、二つの町道で予定していた工事の一方を止めた。

 その町道の脇に住む60代男性は「絶対に怪しい」といぶかる。

 「簗さんの圧力か、役所の忖度(そんたく)か、何かがあったはず」

 計画が動き出して20年以上…

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