
テレビ番組やCMの冒頭、画面の右上に映る「字幕」の文字。リモコンの「字幕」ボタンを押せば字幕放送を利用できる目印です。字幕はニュースなど生放送番組にも付いていますが、あれは一体誰がどこで打っているの? 気になったのでNHKにおじゃまして見学してきました。(朝日新聞withnews・川村さくら)
「生字幕放送です。一部、字幕で表現しきれない場合があります。」
字幕放送に対応したNHKの生放送番組では、最初にこう字幕が流れます。
放送内の音声をリアルタイムで字幕化するため、変換が間に合わないなどで「完璧な字幕」にはならない可能性があることを示しています。
普段は見えない、字幕の裏にいる「入力者」たちに会うため、東京・渋谷のNHK放送センターに向かいました。
音声認識方式とキーボード方式
「字幕の入力には『音声認識方式』『キーボード方式』という2つのやり方があって、ここは音声認識方式のための部屋です」
コンテンツ戦略局でユニバーサル放送を担当している橋田和佳奈さんが教えてくれました。

3人の入力者が手分けしながら、キーボードで番組内の音声言語をタイピングするのが「キーボード方式」。
対して、音声認識方式では「リスピーク」という段階が加わります。
「生字幕室」へ
案内された「生字幕室」は、学校のパソコン室と放送室を掛け合わせたような部屋。
部屋はガラスが張られた壁で二つに区切られていて、両方の空間はそれぞれ10畳ほど。机の上にはパソコンなどの機材がびっしり並んでいます。
奥の空間で入力が行われ、つくられた字幕データを手前の空間でプロデューサーなどがチェックした上で送出するのだそうです。
3人1組で
音声認識方式は3人1組で行われるもので、うち1人が「リスピーカー」、2人が入力者です。
この日の朝に放送された「あさイチ」の録画映像を使ってデモンストレーションを見せてくれました。
生字幕室には放送中、スタジオから映像と音声が転送されてきます。

リスピーカーはヘッドホンでその音声を聞いて出演者の言葉をそのまま復唱します。
AIを活用した音声認識装置がその音声を聞き取って文字起こしして、入力者の修正端末に表示され、入力者は2人で手分けしながら誤字をタッチパネルで直していきます。
字幕は4色
生の音声ではなくリスピーカーが復唱した音声を文字起こしするのは、出演者それぞれの滑舌やしゃべり方の癖をなくして音声認識しやすいようにするため。
さらにリスピークする際には「華丸コメント、おいしそうな湯豆腐」など発言した人の名前も足すことで字幕に発言者の名前も表示されます。

字幕に使えるのは黄色、緑、シアン、白の4色。送出するときに話者によって字幕の色を使い分けることで誰の発言かよりわかりやすいようにしています。
修正端末に表示される文字起こしは、話者が変わるタイミングなどに応じて自動的に黒がけとグレーがけに色分けされ、2人の分担を示します。
「助走」が何かと似ている
入力者は文字起こしされた「マネキン」を「豆系」へ、「放出されて」を「穂志さん」へなどと修正していきます。
「穂志」はなかなか予測変換に登場せず、何度かスクロールしてようやく直せました。

いつでも即座にタッチパネルに触れて修正ができるよう助走するかのように、入力者はずっと端末の縁を指で弾いています。
どこかで見た景色だなと思ったら、鉄道会社の窓口で券を買うときにタッチパネルを操作するスタッフさんの手の動きと似ているのでした。
事前に辞書登録
あさイチのような出演者の多い情報番組だと、何が話題にあがるか完璧に予測することはできません。
ただその日の出演者に応じて、登場が予想される単語が事前に辞書登録されています。

この日のゲストは吉沢亮さん。想定キーワードとして「『国宝』」「木挽町」「鷺娘」などが登録されていました。
VTR部分の聞き起こしや辞書登録などの準備作業だけで、放送時間と同じくらいの時間はかかるのだとか。
字幕入力は複数社が担当
NHKの字幕入力はNHKの関連会社や外部の会社など複数社が担っていて、今回デモンストレーションを見せてくれたのは「NHKビジネスクリエイト」の方々。
現在は19人の入力者があさイチから午後8時45分のニュースの間の担当番組にシフト制で対応しています。
大変だった会見
リスピーク方式での入力で、毎度誤字の修正が必要になる単語はあるのでしょうか。
NHKビジネスクリエイトの人材派遣・字幕制作事業部部長の奈良坂仁さんに聞くと…。
「『手』『根』『葉』など一文字の単語は助詞と区別しにくいこともあって正しく文字起こしされないことが多いです。園芸番組とかは大変ですね」

入力作業が特に大変な番組はあるのでしょうか。
「理研(理化学研究所)の会見が大変だったというのは入力者から聞いたことがあります」
2014年にSTAP細胞の一連の騒動で理研の会見がありましたが、化学分野の専門用語が続出して入力者たちは苦労したのだそう。
入力者たち自身も事前に番組の内容を予習しておきますが、それにも限界があります。
知らない単語が出てきた場合は現場のメンバーで即座に話し合って正しい変換を考え、答えが出ない場合はひらがなのまま出すこともあるそうです。
コントに息を合わせて
奈良坂さんは「とにかく字幕を間違えず早く出すことを大切にしています」と言います。
「『こうだろう』と思い込みで出すと誤りにつながりかねません。おごらず正確に、鑑賞のじゃまにならず自然に受け取っていただける字幕を出せるようみんな使命感を高く持っています」

自然な字幕であることが特に重要になるのは、たとえば番組内で急にコントが始まったとき。
出演する芸人のネタも下調べしてあるため展開は予想できますが、動きより先に字幕を出すと白けてしまうし、アレンジがされていて流れが違う時も。
スタジオと離れていても、生字幕室では入力者たちが出演者たちと息を合わせてテレビの向こう側へ字幕を届けています。
- 字幕放送は「おしん」から始まった NHKに歴史と最新技術を聞いた
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