
Aストーリーズ ドーピング その記録は本物か(2)
ドーピングを容認する前代未聞の国際大会がアメリカで開催されました。この異様な舞台は、一方でスポーツ界が抱える課題を映し出す鏡でもあります。第2回では、アスリートを常識の外側へと誘う「カネ」の現実を追います。
自分は正当に評価されているのか。実力に見合う金額をもらえているのか。
毎日頑張っても、将来への不安は消えない。
そんなとき、競技で大金を稼げる話が届いた。
イギリス出身の競泳選手、ベン・プラウドは5月、アメリカ・ラスベガスで開かれたドーピング容認大会「エンハンスト・ゲームズ」に出場した。
2024年パリ・オリンピック(五輪)の男子50メートル自由形で銀メダルに輝いた32歳は、この春、ドーピングの一線を越えた。
世界水泳連盟は、エンハンスト・ゲームズに関わった選手、スタッフを管轄の大会から追放する方針を示している。だが、プラウドにとって踏みとどまる理由にはならなかった。
動機は金銭だった、と公式インタビューで語った。いくら実績を積み上げても、競技生活の先に安心を描けなかったという。

「私はこれまで問題になるようなことは、何一つしていない。(禁止物質を)体に初めて入れた時、すごく胸がざわついた」
エンハンスト・ゲームズの出場者には大会までの月給に加え、決勝に出れば最低でも陸上は2万ドル(約320万円)、競泳は5万ドル(約800万円)が出た。
大会に向けて最新の施設で練習ができるうえ、医療費や交通費、食費の自己負担はゼロ。陸上と競泳の優勝者には25万ドル(約4千万円)が支払われた。
「当選した宝くじを誰かが玄関に置いていったような出来事。これで母や将来の家族に、良い生活を保証できる」とプラウド。50メートルバタフライを制すなどし、大会本番の一日だけで計37万5千ドル(約6千万円)を手に入れ「かなりの大金を家に持って帰れる」と顔をほころばせた。

参加した42選手のうち、38選手がドーピング行為をした、と主催者は明かしている。臨床試験にも同意した36選手の9割は、筋肉増強の効果があるテストステロンを使ったという。
一握りのスターの陰で
「オリンピアン」の名声を傷つけてでも参加する背景には、スポーツ界を取り巻く「現実」がある。
億単位の報酬を手にする選手…















