
Aストーリーズ ドーピング その記録は本物か(5)
ドーピングを容認する前例のない競技会が、アメリカで開かれました。その存在は、スポーツ界が当然としてきた価値観を揺さぶります。速くなりたい、強くなりたい。そのために、何が許されるのか。第5回では選手たちの選択から、スポーツで競うことの意味を見つめます。
もう一度、あの頃のように泳ぎたい。
ウクライナ出身の競泳選手、アンドリー・ゴボロフはそんな思いを抱いて、水の中で必死に手足を動かしていた。
5月24日、アメリカ・ラスベガス。34歳は、ドーピング容認大会「エンハンスト・ゲームズ」の男子50メートルバタフライに出場した。
狙ったのは、2018年に自身がマークした世界記録22秒27。ドーピングをして臨んだが、22秒66に終わった。
ゴボロフがこの大会に参加した理由は、記録だけではなかった。コーチのYouTubeで苦しい心境を明かしている。
本当は、28年ロサンゼルス・オリンピック(五輪)をめざしていた。今も破られていない世界記録を持つ50メートルバタフライが、新種目として実施されるからだ。

しかし、終わりの見えないロシアによる母国への侵攻で状況は変わってしまった。
金メダル、さらに世界新記録を狙うには、最新の施設やトップレベルのコーチ、手厚いサポートが欠かせない。なのに、思うような練習ができなくなった。
思いつく限りの関係者、組織に支援を願い出た。だが、応じてはもらえなかった。
「後押しがない以上、五輪の夢は追いかけられない」。対照的に「アメリカやフランスのライバルたちは、充実したサポートを受けている」。焦りは募った。
スイマーとしての全盛期を逃…















