エスカレーターに立ち止まって乗るよう呼びかけがあっても、なかなか片側空けや歩く人はなくなりません。朝日新聞のアンケートでは、「歩かないで」という呼びかけを9割超が知っている一方、片側が空いていれば「歩く」と答えた人は3割に及びました。鉄道事業者が「立ち止まって乗る」を徹底しようと試行錯誤する一方、東京都では事故の実態を調べ、エスカレーターの「低速化」など安全利用についての実験を始めようとしています。「人を変える」のか、「機械を変える」のか。現場を追いました。

例外なく、全ての人に
エスカレーターで歩かないよう、JR東日本がステッカーで呼びかけを始めたのは2005年から。もう20年以上も呼びかけを続けていますが、いまだに歩く人はいます。
歩く人たちは「周りに人がいない時や、接触・転倒の危険がない場合は歩いてもいいのでは?」とも言います。それに対し、JR東日本の回答は明確でした。
「周囲の状況にかかわらず、すべてのお客さまに対し、歩かずに立ち止まり、手すりにつかまって安全にご利用していただくようお願いしています」

つまり、例外なく「立ち止まって乗る」ように呼びかけているのです。
減らない事故に、JR東日本は2009年から安全利用のキャンペーンを始めました。
2010年からは賛同する全国の事業者や自治体にも広がり、「エスカレーターは歩かず立ち止まろう」という構内放送や、多言語のポスターで呼びかけています。
呼びかけでダメなら……人が立った
しかし、呼びかけだけではなかなか人の行動は変えられません……。大混雑する新宿駅で人の安全を確保するために「強制的に」立ち止まらせたケースがありました。
京王電鉄は2021年度から、エスカレーターの工事をするため、新宿駅の新線口で「立ち止まって2列で利用する」という案内を実施しました。
片側を空けるために、立つ側に長蛇の列ができると、狭い駅の構内に人があふれて危険があると考えたためです。
しかし、工事開始当初、誘導員や音声案内だけでは大きな効果が得られませんでした。
そこで登場したのが、強制的に足を止めさせる「巡回員」です。
作業着とヘルメット姿で、「2列利用」を呼びかける看板を首から提げ、空いている列(右側)に立ち、立ち止まって乗るように声かけをしました。すると、さすがに歩く人も立ち止まりました。
ところが、京王電鉄の担当者によると「巡回要員がいないタイミングではあまり効果が見られませんでした」。
この施策は工事に伴うもので、工事期間以外では実施されません。

人ではなく「使い方」を変える
エスカレーターでの転倒や転落は後を絶ちませんが、東京都がエスカレーター事故の実態を調べると、「歩く」以外の要因も見えてきました。
東京都は昨年10月から、学識経験者による都民の安全な商品利用を検討する協議会「商品等安全対策協議会」のテーマとして、「エスカレーター利用者のための安全対策」の検討を始め、今年2年目に突入しました。
協議会が公表している、東京消防庁管内のエスカレーター関連の救急搬送事例によると、2014~2023年は、コロナ禍の影響している期間を除き、毎年約1400件の搬送がありました。
搬送者のうち65歳以上が6~7割を占めました。
搬送理由は9割以上が「転倒・転落」によるもので、「バランスを崩す、ふらつく」が各年代で最も多い理由でした。

しかし、「歩行」が理由とされたケースは、歩行の有無を確認できない場合もあるとしつつ、数%にとどまりました。
協議会の都の担当者は「高齢者の場合、歩く歩かないにかかわらず、事故が起きています。自分でバランスを崩されることが多いという印象です」と話します。
発生している時間帯にも意外性がありました。急ぐ人が多い朝や夜のラッシュ時に事故が増えるものかと思いきや、65歳以上の搬送が集中したのは「11~16時台」で、65歳未満は「22~23時台」、飲酒後の転倒などで搬送されるケースが増えました。
そこで協議会が検討しているのが、エスカレーターの運転速度を低くして、高齢者の「ふらつき」などを予防することです。
実際に高齢者が多い地域で「低速運転」をしたところ、事故が減少した事例もあるそうで、「低速化」の実証実験を検討しています。
担当者は「立ち止まって乗ることをマナーとして定着させるキャンペーンには意義はあるが、協議会では、歩く歩かないにかかわらず、事故を予防する方法を考えたい」と言います。
人口が集中する都市部では、低速にすることで混雑が増えるジレンマも抱えます。しかし「時間帯によって速度を変える」などエスカレーター側の運用を工夫することで事故軽減も期待できるとして、実証実験などで検討して、提言をまとめると言います。
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