Smiley face

 「地中に潜ったセミ」のような人生が始まった瞬間だった。

 10年前の夜、誰とも話すことなく対局会場を出た石井一馬の目には、涙が浮かんでいた。

 「なにやってるんだ、俺は……」

 帰る車内。眼鏡を握りつぶした。

 今年ジェッツに入った石井の手に今も残る苦い記憶だ。

 麻雀(マージャン)界は、プロリーグ戦「Mリーグ」でチェアマンを務める藤田晋が変革を起こし始めていた。

 19歳で最高位戦日本プロ麻雀協会に入り、主要タイトルを10年で三つ獲得、当時の最上位リーグ「Aリーグ」でも活躍していた石井は「期待の若手」の一人だった。実際に、いくつかの新しい企画にも呼ばれて参加した。

 だが、そんなタイミングで一つ下のリーグに降級してしまった。

写真・図版
多井隆晴とMリーグで初対戦するジェッツ・石井一馬©ABEMA

 時代の変革を察知して、助言をくれている人がいた。

 アベマズの多井隆晴。多井もまた、地中に潜っていた時期の長いプロだった。

 「一番上のリーグにいることがめちゃくちゃ大事。(最高位戦の最高峰タイトルの)最高位を目指すより、降級に気をつけろよ」

 常に上の舞台で戦える準備をし続けることの大切さを教わっていたが、実践は容易ではなかった。

 翌年からMリーグの前身にあたる「RTDリーグ」が始まったが、声はかからなくなった。

 「俺、何年寿命を無駄にするんだろう」

 地中に潜る期間は、この先8年間に及ぶことになる。

 段々と、焦りと羨望(せんぼう)が石井の身を包むようになっていった。

     ◇

 決定的に意識を変えたタイミングがある。

麻雀プロ全体の中で、日の当たる存在はごくわずか。降級を経て、大きく回り道をして、石井一馬はようやくMリーグの舞台に立った。それでも「無駄じゃなかった」と石井は言い切る。

  • 多井隆晴が過ごした不遇の時代をめぐるエピソードなど、Mリーガーたちの物語はこちらから。

 降級から2年ほど経ったRT…

Share.